子どもの性教育において「3歳からの親子関係」が重要になる理由

高山恵子,佐々木睦美

「子どもと性のことを話すのは大切」と思っていても、いったい何から話せばいいかわからない、という人も多いのではないでしょうか。本稿では、「自分のからだを守れる子」に育てるために必要なことを、臨床心理士でNPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子さん、保健師の佐々木睦美さんが教えます。

※本稿は、高山恵子,佐々木睦美著 『親子で話そう!性のこと: 3歳から始める性教育』(Gakken)から一部抜粋・編集したものです。

【著者プロフィール】
高山恵子
NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。アメリカ・トリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。

佐々木睦美
看護師を経て、現在フリーの保健師として子どもの健診、子育て相談や性教育等に従事。1999 年、CAP(Child Assault Prevention)スペシャリスト取得。CAP の活動をする中で、性暴力被害の深刻さを知り、性暴力防止の視点を入れた性教育ができないか模索。子ども向け、大人向けに年間約80講座を実施。

いやなことは「いや」と言う

・「いや」は自分を守る言葉

「パンツの中を見せて」と頼まれた、「キスしてもいい?」と言われた、といった場面で、「いや」と感じていいし、「いや」と言っていい。これは、自分のからだと心を守るためにとても大切なことで、「NO」は生きていくうえで必要な言葉です。でも、「いや」ってちょっと言いづらい……。

「いや」と言うと相手に悪い、嫌われると思っている子どもも多いようです。大人にもそのような感覚がないでしょうか。

「いや」というのは、相手を否定する言葉ではなくて、「私はしたくないよ」「されたくないよ」という自分の気持ちを伝える言葉です。

保育や教育現場で「ちくちく言葉(相手の心が傷つく言葉)・ふわふわ言葉(相手の心が元気になる言葉)」を子どもたちと考える取り組みがありますが、「いや」は決して「ちくちく言葉」ではないということを、ぜひ子どもに伝えたいですね。「いや」は大切な自己決断、自己決定で、自分を守る言葉です。

・「NO」を受け入れられる体験も大切に

くすぐられるのが苦手な子が「いやだ」と言ったときにやめてもらえた、という体験も大事。「いや」を受け入れられる経験をすると、子どもは「言っていいんだ」「言ってよかった」と感じることができます。

言ってもやめてもらえない場合、「いや」と言ってもしかたがない、相手がいやがることをやってもいいんだ、と誤学習してしまうこともあります。子どもが小さいときから、家族の中で「これはいやだからやめて」と言われたらやめる、ということを大事にしましょう。

「NO」を受け入れられてこそ、信頼関係は深まっていくものです。それは子どもも大人も同じ。大人も「いや」と言っていいし、その気持ちを大事にしてほしい。子どもに、パートナーに「いや」と言えているかな? と大人自身も振り返ってみましょう。



・幼児期からの子どもとの関係づくりが、性教育の始まり

「いや」を伝える力の土台となるのは、自分の「いや」という気持ちに共感されたり、「どうしたいか」を自分で決めたりする経験です。2歳頃になると「いや」をたくさん言うようになり、それはとても大事なプロセスです。

まだ幼いので、大人が主導権をもつことが多い時期でもありますが、「ダメだよ」とただ否定するのではなく、「そうか、いやなんだね」と受け止める。「あなたがいやだと思っているのは、わかっているよ」という共感を大切にしてほしいと思います。

また、例えば、児童館でままごとあそびをしているとき、違う子が「このお鍋を貸して」と言ってきたとします。大人はそこでつい、「貸してあげなさい」と言ってしまいがちですが、ここで大切なのは本人の気持ちです。

「いいよ」と貸してあげるのか、「今使っているからいやだよ」と言うのか。それを決めるのは子ども自身です。

そこでの大人の役割は、「〇〇ちゃんはどうしたいのかな?」と確認して、貸したくない思いがあるようなら、「そういうときは『今使っているから、あとでね』という伝え方もあるよ」というように、子どもの気持ちを一緒に確認したり、自分の気持ちを伝える言葉の選択肢を提案したりすることです。

どうしたいかを自分で決めること、それを伝えること。幼児期からそういう経験を大切にしていくと、自分の気持ちを大事にして、相手に「いや」を伝える力が育ちます。性教育のベースは、性に特化したことだけではなく、子どもとの関係づくりや自己決定が基本です。だからこそ、幼児期からの意識が大切なのです。

プライベートゾーン」は自分だけの大切なところ

・「プライベートゾーン」とは?

からだはどの部分も大事ですが、その中でも特別なところが「プライベートゾーン」。具体的には「口・胸・性器・おしり」を指します。子どもには、「水着で隠れるところと口だよ」と教えるとわかりやすいですね。水着で隠れていない男の子の胸も、プライベートゾーン。「下着で隠れるところ」と伝えてもよいかもしれません。

プライベートゾーンは、大人にとっては性的な意味合いをもつ個人的な場所ですが、小学校低学年くらいまでの子には難しいので、「特別に大事な場所だよ」と話すとよいでしょう。

「なんで大事なの?」と聞かれたら、「命の誕生と関係しているからだよ」「男の人のおちんちんも、女の人の脚と脚の間にあるおまたのところも、赤ちゃんができたり、生まれたりすることに関係している大事な部分なんだ」「赤ちゃんが生まれたら、女の人はおっぱいをあげるよね。だから胸も大事」などと伝えるとよいでしょう。

「じゃあ、なんで口もプライベートゾーンなの?」と聞く子もいるかもしれません。口が性的な表現や行動にかかわることを子どもに説明するのは難しいので、例えば、「口からごはんを食べるよね。それも命と関係しているね」「口はからだの中と外をつなげて、〇〇ちゃんが元気に生きられるようにしてくれる場所だよね」などと伝えるのも一案です。

子どもに「なんで大事なんだと思う?」と聞いてみてもいいですね。



・「自分だけの大切なところ」という意識を育てていく

まず、次のことを親子で確認しておきましょう。

プライベートゾーンは……
〇自分ではない人が、勝手に見たり、触ったりしないところ。
(自分で自分のものを触るのはOK)
〇自分のものであっても、人がいる場所で見たり、触ったりしないところ。
(人がいない場所ならOK)

口については、誰かが無理矢理何かを入れたり、覆ったりしないところ、という説明もしておくとよいでしょう。

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